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映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

映画『ヴィレッジ』で横浜流星さん×藤井道人監督が6度目のタッグ。目を奪われる流星さんの横顔の意味は!?

  • 折田千鶴子

2023.04.20

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現代日本の病巣を抉り出す

18年に公開された青春映画『青の帰り道』にはじまり、昨年全世界に配信され日本総合第1位を記録して大きな話題となったNetflixシリーズ『新聞記者』を経て、今をときめく横浜流星さんと藤井道人監督が、映画『ヴィレッジ』で、なんと6度目の再々々…タッグを果たしました!

この2人が組むとスゴイものが出来ると確信させられる、胸を鷲掴みにされる、いやムグッと胸を抉られるようなスゴイ映画になっています!!

前のめりで取材を申し込み、オファー殺到と聞かされて戦々恐々といたしましたが、無事、売れっ子のお2人にお話を聞くことが出来ました! ちなみに藤井監督は、『宇宙でいちばんあかるい屋根』以来、LEEwebに2年半ぶりの登場です。

左:藤井道人監督 
1986年8月14日、東京都生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。『オー!ファーザー』(14)で長編映画デビュー。代表作に『青の帰り道』(18)、『デイアンドナイト』(19)、『新聞記者』(19)、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20)、『ヤクザと家族 The Family』(21)、『余命10年』(22)など。ドラマの代表作に「アバランチ」(21)、「新聞記者」(22)ほか。映画『最後まで行く』が5月19日公開予定。
右:横浜流星さん
1996年9月16日、神奈川県生まれ。2011年、俳優デビュー。昨年の出演作に映画『嘘喰い』『流浪の月』『アキラとあきら』『線は、僕を描く』、ドラマに「DCU」「新聞記者」など。今年2〜3月に上演された主演舞台「巌流島」では全40公演が満席・完売で幕を閉じた。さらにW主演映画『春に散る』が23年8月25日公開予定。

本作の発起人、プロデューサーの河村光庸さんについても書き添えておかねばなりません。河村さんこそ、(当時の)政権に真っ向から挑む、タブー視されていた政治的な作品を市場に乗せ、大成功を収めた『新聞記者』の映画版&Netflix版をプロデュースした人。面白いものを見つける天才で、エッジの効いた書籍や映画を世に送り出してきましたが、昨年の6月に惜しまれながら逝去されました。

『かぞくのくに』(12)、『あゝ、荒野』(17)、『新聞記者』(19)、『空白』(21)など、その年を代表する意欲的な作品を次々と手掛けて来た河村さんが、日本の映画ファンに遺言とも言えるような、映画愛と未来への希望、もちろん現代日本が抱える闇や病巣を鋭く突いた『ヴィレッジ』を、この2人に託して旅立たれました。それを見事に受け止め、ドンと骨太な社会派エンタテインメント映画『ヴィレッジ』が誕生しました。

『ヴィレッジ』ってこんな映画

©️2023「ヴィレッジ」製作委員会
4月21日(金)全国公開

伝統の「薪能」が伝わる、美しく神秘的な霞門村(かもんむら)。しかし霧深い山の上には、似合わぬ巨大なゴミの最終処分場がそびえ立つ。この村に住む優(横浜流星)は、過去に父親が起こした事件によってこの地に縛られ、出ていくことが出来ない。母親(西田尚美)が抱えた借金を返すためにゴミ処理施設で働く優は、そこで不法労働に手を染める。しかし東京から幼馴染の美咲(黒木華)が戻って来たことを機に、再び人生に光が差し掛けるが――。一度堕ちたら抜け出せない負の連鎖、村社会やその同調圧力など、現代日本の縮図のような、怖くて胸がガクガク揺れる社会派サスペンス・エンタテインメント。

──今回はロケハン(撮影現場を探す/決めるために見に行く)から横浜さんも参加し、監督と一緒に回ったそうですね。映画作りって、こういう面があったのかなど発見はありましたか?

横浜「作品作りに関しては、毎回、全力で臨むので何も変わりませんが、藤井監督とは7年の付き合いで、本作が僕にとって藤井組での長編初主演作となるので、やっぱり気合いは入りました。ちょうど自分が京都に行った時、監督が「ロケハンに来る?」と言ってくれたので、参加したい、と。ちょうど優にとって大事な場所――優の家やゴミ処理施設を見に行く予定で。なぜ今までロケハンに役者が参加しなかったんだろうと思うくらい、とても大事な時間になりました。撮影当日に現場に行って、思い描いていたものと違うということも結構あったりするんです。実際にロケハンに行って色々感じることがあったので、今後そういう時間を作れるのなら積極的に参加していきたいと思いました」

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──ロケハンに加え、横浜さんは脚本開発にも参加されたそうですね。

藤井「1シーンごとに意見や感想を求めたというより、しっくり来た場面や共感した部分を伝えてもらいました。また、互いに悩みを共有し、それを優という人物に落とし込んでいきました。主には、僕が悩んでいる時に、“ミッチー、待ってるよ”と言ってくれた感じですね」

横浜「絶対に渾身の脚本が出来てくると思っていたので、監督がやりたいことを信じて待っていた感じです。もちろん何か思うことがあった時には、伝えはしましたが……」

──共有した悩みを元に、どんなことを優という人物に落とし込でいったのでしょう!?

横浜「本作を撮ろうとしていた1年前と今はまた、状況が変わっていますが、当時、自分が感じていた恐れや惑い、怖さみたいなものを監督に全て伝えました。それを優に反映してくれたと僕も感じました」

藤井「優は、村の顔みたいな存在としてどんどん祭り上げられていきますが、一寸先は闇なんですよね。また掌(てのひら)を返されるんじゃないか、村で自分の居場所がまたなくなるんじゃないか、と優は恐れている。すごい笑顔に見えて、本質的な笑顔じゃない、みたいな部分など。優が転落していく様に、本来の俳優生活ではできない感情を代弁してもらっていった感じです」

──転落していく優を演じる上でも、そういうことから一味違う重なり方をしましたか!?

横浜「身近なところでも転落していく人を見てきたこともあり……。この仕事をしていると、たった一つの失敗や過ちで許してもらえず、とても怖いという感覚がありました。もし自分がそうなったら、優と同じように自分も転落していくんだな、とも思って……」

前半の肝のシーンは……

──死んだように人前で感情を押し殺して来た優が、東京から帰って来た幼馴染・美咲に、「一人でずっと闘ってきたんだね」と言われ、初めて感情を露にします。観客も心が揺さぶられるシーンであり、優の運命が変わる。そこからキスシーンへ繋がっていく繊細な場面が連続しますが、あの一連のシーンはどのように作り上げましたか。

横浜「美咲に初めて感情を露にするシーンで、やっぱり大変でした」

藤井「しかも積み上げる前、あのシーンの撮影で」

横浜「ロケ地の都合上、前半に撮ったこともあり少し不安で。撮影後、監督に“自分、大丈夫だったかな。また撮り直した方がいい?!”みたいなことを伝えました。そこで、“いや、全然、ちゃんと撮れたから大丈夫!”と力強い言葉をもらえて安心しました」

藤井「撮影中、“ここで優の感情が決壊し、新たな人生が始まっていく”という方向に頭が行っていたんです。でも見方を変えると、美咲が仲間を増やそうとした瞬間でもあるな、と。美咲が自分の居場所を見つけようとした瞬間でもあると解釈した時、すごく自分の中で腑に落ちたんです。なので、編集ではメチャクチャ細かい調律をしました。今回、一方向だけの解釈ができないように繋いでいきました。だから逆にあの場面では、流星がピュアに優のキャラクターを突っ込んでくれたから、その選択ができたのだと思いました」

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──かなり長いシーンでもありますが、一連で一気に撮ったのですか!?

藤井「部屋に入ってから倒れ込み、自分の服を脱ぎ捨てるまで、ざっと5分ぐらいあるシーンですが、一連で撮り、何回も繰り返しました」

横浜「確か10回くらい繰り返しましたよね!?」

藤井「何十回かも(笑)。すごい時間をかけました」

横浜「でもブツ切りに撮っていくより、感情的なシーンは一連でやらせてもらう方が、絶対に良かったです。美咲とのシーンもまだあまり撮っていない中での撮影でしたが、あのシーンを撮ったことで美咲との距離感を掴めました。優にとっても1つの分岐点だったので、早い段階に大事なシーンを撮れたのは、優として生きる上で、すごく良かったと思っていました」



一発OKは、ほぼなし!

──これまでも藤井監督は、テイクを重ねていく方が演出が乗るとおっしゃっていましたが、1発でOKされることってありますか!?

藤井「ほとんどないですね。俳優部が準備してくれてきたものを最初に出していただいて、2回目から、そこに演出をしっかり乗せていくやり方なので。そういう調整に時間が掛かる。感情って、ロボットのように簡単にスイッチが入るものではないので、3,4度とテイクを重ねていくと徐々に馴染んでいき、5度目くらいに1番いいものが撮れることが多いんです。実は、別の取材で、“ラストシーンは本当にいい芝居で、1発でオッケーだった”と言ったら、“すごく良かったけど、もう1回って言った”と、言われて(笑)。“あれ、一発じゃなかったっけ!?”って(笑)」

──今回、最もテイクを重ねたシーンは!?

横浜「古田新太さん演じる村長に、“人生を変えるなら今だ”って言われるシーンですかね!?」

藤井「だったね。優の心情や表情は、嬉しいのか、怯えなのか。あのシーンでは、優が蜘蛛の糸をようやく手に入れ掴んだ瞬間なんです。と同時に、優は自分の罪、自分の家のことなど、色んなことが頭をよぎっているので、“やった~!”とは言えない。その複雑さを今回は流星の表情に課したことが多かったからこそ、あの場面が一番大変だったと思います」

横浜「はい、すごく大変でした」

──横浜さんは、1発でOKが出ないと分かっている上で,毎回、全力で行くわけですよね!?

横浜「そうです。もしかしたら(OKが)来るかもしれない、と。絶対にないですが(笑)」

藤井「確かに一発でOKって言う時は、逆に“えっ!?”ってなるよね(笑)」

横浜「ですね、ちょっとビックリしちゃう(笑)。あれ、時間ないのかな、と逆に気にしちゃいます」

印象に深い横浜流星の横顔

──優にグッと寄っていく、正面もですが特に横顔が印象に深かったです。その辺りはカメラマンとの打ち合わせを含め、どのような意図があったのでしょうか!?

藤井「実は優の顔の向きにも意味があるんです。第一章、二章、三章とあり、その中で顔の向きが変わっていきます。最初はネガティブな下目線。正面を向いていますが、下目線。それが第二章に入ると、段々と自分を肯定していくにしたがって横の上向きになっていく。でもまた自分の中で葛藤が出てくると、反対の横の下向き加減になって影が入ってくる。それらを撮影班や照明班と一緒に作っていきました」

──緻密な意図を忍ばせつつ、横浜流星の寄りカット、横顔が魅力的ですね。

藤井「ずっと一緒にやって来たので、少し前まで流星をイケメンとか感じたことがなかったのですが、最近ある男性誌で拝見し……うわ、カッコいい~♡って(笑)」

横浜「アハハハ(笑)」

藤井「成熟し、顔もどんどん大人になって来て、余計なものが削ぎ落とされてきたな、と。だから他の映画での流星を観るのも、すごく楽しみなんです」

横浜「僕自身、新しい発見がありました。その横顔の時、自分では強く表現しているつもりだったのに、モニターを見たらまだまだ弱い弱い、と感じて」

藤井「そんなことあった?」

横浜「はい。もっと表に(感情表現を)出していかないと伝わらないと、横顔で発見しました」

“あの人”から届いた感想メールや詩

──河村さんから色々と託されたと思いますが、 藤井監督が自分としてこだわったもの本作に込めた思いはどんなことでしょう!?

藤井「本作は、片山優という人間に振りかかった転落劇です。転落するのは“場”があるから。そして“個”ではなく、“社会”に居ることに安住しているが故に、コミュニティ至上主義になり、コミュニティ依存に陥ってしまう。でも本来、最も大事なのは自分がどう生きるべきか、周りの人をどう幸せにできるか、というハズ。縁を大事にするべきなのに、仕組みに巻き込まれちゃうと、合理化が伴いルールにがんじがらめになってしまう。そういうことに対し、僕の目線や世代だから言えることが絶対にある。僕も、日本映画村に所属している身なので、変えていかなければならない、変わるべきことに対し、“言えない/言わない”という選択は正解かもしれないけれど、そうは思えない。でも言葉で発するのではなく、僕は映画作品や映像の中でそれを発表していきたいと思っています」

──マスコミ試写が満員で予約が取れなかったようですが、そんな業界内人気や反響は届いていますか!?

横浜「仲良くさせてもらっている関ジャニの丸山隆平君や、僕の同級生でもある岩谷翔吾君から、普段はそんな長文とか来ないのに、かなりの長文で『ヴィレッジ』の感想が送られて来ました。特に丸ちゃんは、完全に優の気持ちになって、詩まで送ってくれて。こんなに人の心に届いたんだと、本当に嬉しかったです!」

藤井「前作の『余命10年』や5月公開予定の『最後まで行く』を観てくれた人が“メチャ良かった”とか“超面白かった”、“感動した”など、みんな感想が似ているんです。でも『ヴィレッジ』は、“ここ数年の1本になりました”という人もいれば、“すぐには感想が出てきません”とか、それぞれ違っていて。映画らしい体験をしていただけて良かったな、と。みんなが“良かった”という映画より、本作は観てくれた人たちの人生の余白のどこかに入り込んだ、と思えて。たとえ拒絶された方の感想を見ても、その気持ちも読むと分かるな、というか。色んな感想が出るような映画って、これまでビビっているところがありましたが、それこそが今回チャレンジできた部分なのかな、と思います」

断ち切りたいもの、継いでいきたいもの

──本作を踏まえ、改めて未来に継いでいきたいもの、逆に断ち切りたいものを教えてください。

藤井「断ち切りたいものは、惰性や意味のない伝統、ルール。受け継いでいきたいのは、愛ある伝統ですね(笑)。誰かが組織を運営するためにのみ必要なルールは、本当にいらない。どうにかならないかと思っても、“ルールなので”というのは、事態を膠着させるだけ。これからさらにデジタルが加速して進化していくのに、古い慣例だけに囚われているのではなく、ちゃんと色んなところをアップデートしていかなければ、と。でも逆に、河村さんから受け継いだ、物を作る心、その精神性、妥協しない姿勢、自分の言葉に嘘をつかない、自分の考えをしっかり持つといったことは大事にしていきたいです」

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横浜「僕は、自分に何ももたらさない意味のないものは、人もモノも既に断ち切っているつもりです。特に2年半前、僕がコロナに罹った時にいろんなことを感じて。あの時はまだ、コロナって得体の知れないものだったので、単に興味本位で聞いてくる人、心から心配してくれる人と色々でした。コロナで仕事もモノもなくなり、たくさんの人に迷惑をかけましたが、心ない言葉をもらったりもしました。そういうことを通して、自分が好きなもの、いいと思うもの、必要なもの、必要ないものなどがハッキリしました。自分の心に素直になろうと思えたし、あの期間に整理も出来ました」

──ちなみに藤井さんは剣道、横浜さんは空手と、日本の伝統的な武術を経験されてきましたが、そういうものを通して、後世に受け継いでいきたいものはありますか!?

藤井「礼儀ですね」

横浜「礼儀をはじめ、僕が空手で学んだものは、すべて受け継いでいきたいです。道場訓として掲げてあった、“忍耐、尊敬、感謝”という3つは、これからもずっと大事に生きていきたいと思っています」

果たして優は、負の連鎖から抜け出すことが出来るのでしょうか。村長を演じる古田新太さん、優や美咲をおびやかす村長のドラ息子を演じる一ノ瀬ワタルさんの、本当に胸を掻きむしりたくなるほどのイヤらしさ(誉め言葉です)!!

日本人が憧れる原風景的な神秘性をたたえながら、不似合いなごみ処理施設がドンと構えるグロテスクさは、私たちが日々“なぜだ~!?”と感じている、なかなか変われない日本社会の因習や根性を見るようです。皆さんは、ラストシーンの優の表情をどう見るでしょうか。誰かに何かを伝えたくなる、この悲鳴を上げたくなるようなサスペンス・エンタテインメントを是非、劇場で体感してください。

『ヴィレッジ』

4月21日(金)全国公開

©️2023「ヴィレッジ」製作委員会
2023年/日本/配給:KADOKAWA、スターサンズ
監督・脚本:藤井道人
出演:横浜流星 黒木華 一ノ瀬ワタル 奥平大兼 作間龍斗 /中村獅童 古田新太

映画『ヴィレッジ』公式サイト 公式Twitter(@village_moviejp)

写真:菅原有希子
■横浜流星さん
ヘアメイク:永瀬多壱 TAICHI NAGASE (VANITES)
スタイリスト:伊藤省吾  SYOGO ITO (sitor)
衣装:コート¥760,000 シャツ¥98,000(参考価格) パンツ(参考商品) ブーツ¥179,300 *すべて税込
以上、全てディオール(クリスチャン ディオール)
問合せ:クリスチャン ディオール(東京都千代田区平河町二丁目一番一号 ☏0120-02-1947)

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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