LIFE

CULTURE NAVI「今月の人」

【松坂桃李さんインタビュー】割いた時間すべてが、このためにあったという思いで演じた『流浪の月』

2022.04.29

この記事をクリップする

Culture Naviカルチャーナビ : 今月の人・今月の情報

まだこの人には開かれていない扉があったのか。同名ベストセラーを映画化した『流浪の月』で、あらためて松坂桃李さんの底知れぬ力量と役者魂に驚嘆させられる。少女誘拐監禁事件の元誘拐犯と被害女児、本人たちだけが知る真実と、15年後に再会した2人を描いた衝撃作で、「元誘拐犯」の文を演じている。

割いた時間すべてが、このためにあったという思いで演じた
────松坂桃李さん

松坂桃李さん

「以前からご一緒したいと思っていた李相日監督と(『パラサイト 半地下の家族』の)ホン・ギョンピョ撮影監督がタッグを組む作品に自分が飛び込めるなんて、宝物のような現場になるだろうと確信を持ちました。同時にこれまでの役者人生において、最も高いハードルになるとも思いました」

「やりたい」と「そんな大変な挑戦しないでいい」という気持ちがせめぎ合ったと笑う。だが李監督をして「髪や体毛一本一本に至るまで(略)積み上げていく執念に心が震える」と言わしめたほど文になりきった。

「コーヒーをいれる練習をはじめ、思いつくことは全部やりました。でも、台本と原作をひたすら読み込み、たくさん文と向き合う時間をちゃんと割けたことが、一番大きかった」

松坂桃李さん

何しろ文は15年も、“ロリコン誘拐犯”とそしりを受け、隠れるように生きてきた男だ。

「文の心の在り様をあえて言葉で説明するなら、波風が立っていない広い湖の真ん中に、ポツンと体育座りをしている男……かな」

15年ぶりに文を見た更紗は居ても立ってもいられず、何度も文の喫茶店を訪れる。けれど、そんな2人の関係を、世間が許すはずはなかった。

「原作でも脚本でも現場でも、言葉では言い表せない特別なつながりがあり、2人はそれをグッと握りしめ、頼りにして生きている印象を持ちました。でもその特別なものは、世間からしたらとてもポジティブにはとらえられないもので……」

松坂桃李さん

2人だけの“真実”の裏で、文が抱えてきた秘密を更紗に明かす終盤のシーンに、思わず絶句し震える。

「コップに少しずつためてきた水があふれ出たというか、締めていた蛇口をギュッとゆるめた瞬間というか。クランクイン前から文として割いてきた時間すべてが、このためにあった、という思いで演じました」

その言葉に深く納得させられるほど、二度と撮れないシーン、二度はできないに違いない演技を、観客は目の当たりにさせられる。

「(別角度からもカットを)割ると思っていたので驚きましたが(笑)、一発で撮り終えてよかったです」

松坂桃李さん

本人は役に引きずられることはまったくないと、カラッと笑う。毎作、新境地と言われるように、意欲的な作品選びを見事に成功させているが、その基準に変化はあるのだろうか。

「作品も役も柔らかいものから尖ったものまで偏らずバランスよくやる、というマネージャーさんとの共通認識は基本、変わらないです。ただ最近は、しっかり休みを取りながらやりたいとは伝えています」

プライベートでの変化についても聞いてみると……。

「ボーっとしていた時間が減り(笑)、家のことをする時間に変わりました。やってみて、家事はちゃんと分担しないと大変だな、とあらためて感じました。僕は家事が好きとは言えないけれど、料理は得意になりたい。蕎麦打ちセットの購入に続き、今は豚の角煮を極め中で、砂糖を使わずいかに甘味を出せるかを考えています(笑)」

松坂桃李さん

Profile

まつざか・とおり●1988年10月17日、神奈川県生まれ。『侍戦隊シンケンジャー』(’09年)で俳優デビュー。代表作に、『孤狼の血』(’19年)、『新聞記者』(’20年)、『いのちの停車場』『あの頃。』『孤狼の血 LEVEL2』『空白』(’21年)など。待機作に、『耳をすませば』(’22年公開予定)、Netflix『離婚しようよ』(’23年配信予定)。
Twitter:MToriofficial
公式サイト:https://topcoat.co.jp/tori_matsuzaka



『流浪の月』

『流浪の月』

©2022「流浪の月」製作委員会

地方都市で暮らす更紗(広瀬すず)は、恋人(横浜流星)と住むマンションとパート先を往復する日々。ある日、同僚に誘われて訪れた、隠れ家的な喫茶店のマスターを見て息をのむ。彼こそ15年前、小学生の更紗を誘拐したと世間を騒がせた佐伯文(松坂桃李)だった。本屋大賞を受賞した凪良ゆうの同名小説を、『怒り』の李相日が映画化。5月13日より全国ロードショー。


撮影/小林真梨子 ヘア&メイク/髙橋幸一(Nestation) スタイリスト/カワサキ タカフミ 取材・文/折田千鶴子

CULTURE NAVI「今月の人」記事一覧

この記事へのコメント( 0 )

※ コメントにはメンバー登録が必要です。

LEE公式SNSをフォローする

閉じる

閉じる