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私たちが抱える切実なもがき。佐久間由衣さん×奈緒さん『君は永遠にそいつらより若い』インタビュー

  • 金原由佳

2021.09.18

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自分の想像もしない心の傷を抱えた友人を得たときにできることとは? 同級生コンビ、佐久間由衣と奈緒が表現した、弱った人への寄り添い方

佐久間由衣さん奈緒さんインタビュー

昨年の東京国際映画祭でガツンと衝撃を受け、その後、何度も頭の中で反芻している作品が吉野竜平監督の『君は永遠にそいつらより若い』です。津村記久子さんが原作となる小説を発表したのは2005年のこと(「マンイーター」のちに「君は永遠にそいつらより若い」にタイトルが変更)。映画化実現までに15年の月日が経ちましたが、この小説はいつの時代であっても私たちが抱える切実なもがきについて書かれています。

それは、自分では想像し得ない過去を持つ人と出会ったとき、果たして自分は何ができるのかということ。当事者と非当事者の間に立ちはだかる壁と、その壁をくぐり抜けることはできるのか、主人公、ホリガイの自問自答を描いた作品です。

児童福祉職への就職が決まり、大学卒業までどこか手持ち無沙汰な状態のホリガイを演じるのは佐久間由衣さん。そして、ホリガイが授業でノートを借りて、特別な交流が始まる3年生のイノギを演じるのは奈緒さん。二人の関係性は友情と言うには運命的で、それぞれの抱える痛みに一歩踏み込む勇気を描いています。同い年の佐久間由衣さんと奈緒さんに、この映画の題材について伺いました。

●佐久間由衣(Yui Sakuma)1995年生まれ、神奈川県出身。2014年女優デビュー。15年「トランジットガールズ」(CX)でドラマ初出演にして初主演を務める。NHK連続テレビ小説「ひよっこ」(17)ではヒロインの親友、助川時子役で一躍脚光を浴びる。初主演映画『”隠れビッチ”やってました。』(19/三木康一郎監督)では第32回東京国際映画祭で東京ジェムストーン賞を受賞。近作に『あの日のオルガン』(19/平松恵美子監督)、『劇場版ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』(19/野口照夫監督)、『殺意の道程』(21/バカリズム脚本、住田 崇監督)など。20年12月~21年1月にかけて出演した舞台「てにあまる」(演出:柄本 明)では初の舞台ながら堂々たる熱演で話題を呼び、好評を博した。NHK土曜ドラマ「ひきこもり先生」、カンテレ・フジテレビ系連続ドラマ「彼女はキレイだった」に出演した。今後はTBS金曜ドラマ「最愛」が10月スタート、そして自身初となる写真集「佐久間由衣写真集 SONNET 奥山由之撮影」が11月4日に発売する。 佐久間由衣 公式サイト:https://yuisakuma.com●奈緒(Nao)  1995年生まれ、福岡県出身。NHK連続テレビ小説「半分、青い。」(18)でヒロインの親友役に抜擢され、19年「あなたの番です」(NTV)ではサイコパス役を怪演し話題を集める。主演映画に『ハルカの陶』(19/末次成人監督)、近作に『事故物件 恐い間取り』(20/中田秀夫監督)、『みをつくし料理帖』(20/角川春樹監督) 、
『劇場版 シグナル 長期未解決事件捜査班』(21/橋本 一監督)など。現在、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(堀江貴大監督)が公開中。今年度の待機作としては『マイ・ダディ』(金井純一監督)、『草の響き』(斎藤久志監督)、『あなた番です劇場版』(佐久間紀佳監督)の公開が控えている。ドラマでは9/25スタートNHK土曜ドラマ『「正義の天秤』、10/6スタートNTV『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~』に出演する。

人の心の傷に気づけなかったことで抱く罪悪感ってある(佐久間由衣)

──お二人は年齢が一緒で、この映画の撮影に入る前に、交流する時間を設けたと聞いています。

佐久間由衣(以下、佐久間) 撮影前の神社でのお祓いの後にお茶に行ったりしました、

奈緒 カレー鍋も食べに行ったね。

 ──この映画に関して、演じているキャラクターとお二人の間に齟齬がないように見えるんです。実は、演じてみてここが一番遠くて、一番近かった部分を教えてもらえますか?

佐久間 私の演じたホリガイさんは、緩やかなというか、ローなテンションの人で、そこは普段の自分と近い感じですね。それと、奈緒ちゃんの存在があったことはすごく大きかったですね。違う点は、ホリガイは表面的には冷静に見えるんですけど、内は情熱的な子。そこがかっこいいなと思います。

──奈緒さんはいかがですか?

奈緒 私は他人に話しかけるなど、割と自分からコミュニケーションを取りに行くことが多いので、そこは演じたイノギさんと違うところだなと原作や脚本を読んだ時から感じていました。イノギさんは閉ざしている部分がすごく強い。とはいえ、イノギさんの日常のテンションが楽しくないとかじゃなく、例えば、実家に帰ったときの、落ち着いていて喋ったりもしない時間の中にいるときの自分というか、私のテンションが一番落ち着いている時が、イノギさんの通常のテンションだという感じでした。

演じているときは、イノギさんの孤独な部分をすごく感じました。本作に限らず、毎回、役の履歴書を作るのですが、今回は撮影に入る前に吉野監督と一緒に、イノギさんってどういう人なんだろうと探す時間を作っていただけたので、自然と現場でイノギさんとして居ることができたと気がしています。

イノギさんの自分を肯定できない部分には丁寧に寄り添いたいと思っていました(奈緒)

──私がこの映画のとても好きなところは、ホリガイさんは世間で言われる女性らしさの範疇にどうも自分が上手くフィットしないという感覚を持っているところ。背が高くて、処女であるという自分の要素をつい、笑いにまみえて茶化してしまう。

イノギさんは逆に、女性であるが故に男性からの暴力を若くして経験してしまって、解消できない痛みを内包している。そこの要素は映画の中で丁寧に描写されますが、どうアプローチしましたか?

奈緒 私は吉野監督と色々、すり合わせをさせてもらって、映画に出てこない部分のバックボーンを、原作を飛び越えて作っていきました。例えば私は母親とふたりで暮らしているから、生活の中で男性が近くに居ることがない。なので男性と接する緊張感みたいなものは想像できました。

イノギさんは過去に、自分は悪くないのに、人から与えられた傷を抱えてしまっている。でも、自分が悪くないからこそ、自分自身が悪いと思わないと割に合わないぐらいの過去だと思うんですよ。自分の経験が原因となって周囲の人を不幸にしていると、彼女はそこにとらわれている。本当は何も悪くないのに、過去の傷を自分の罪として背負いながら、自分を否定しながえら生きている。でもそうしないと生きていられない。そういう表裏一体な感情があって、この人はいついなくなってもおかしくないようなか細い存在だなと思いながらイノギさんを演じていました。イノギさんの自分を肯定できない部分には丁寧に寄り添いたいと思っていました。

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佐久間 ホリガイさんは自身の過去に傷があるとか、そういう理由ではないけれど、人の心の傷に気づけない自分にすごく罪を感じていたりする。そういうことってありますよね?原作を読んだ時も感じたのは、ホリガイさんもイノギさんも、理由は違うけれど、この2人には共通して自分を肯定できていないところがある。ホリガイさんは無菌状態でそうなっているけれど、イノギさんは強烈な事件に巻き込まれて、そうなっている。

原作にもありますけど、ホリガイさんは処女であることを本当は気にしていなかったけど、周りから色々言われて、本質とずれていく自分がある。背が高すぎるとか、色々と自分を肯定できない要因がたくさん重ねていった人がホリガイさんだという気がします。ただ、ホリガイさんとイノギさんの2人が出会ったことで、互いに少し、自分のことを受け入れられたりする。人生の中で、そういう出会いがあることがとても大切。この『君はそいつらより永遠に若い』っていう作品との出会いも、私にとって大切なものです。

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奈緒 映画を見るとわかるけど、ホリガイさんとイノギさんが一緒にいる時間って、実はそこまで多くない。2人で撮影した日数も、時間計算するとそんなに多くないんですけど、すごく濃密な時間でした。

 



『テルマ&ルイーズ』の女性同士以上に、人間同士の絆の描き方が好き(奈緒)
『アデル、ブルーは熱い色』は主人公カップルに向上心があるのがいい(佐久間)

──ホリガイさんとイノギさんのシスターフッドともいえる関係性と関連して、お好きな作品はありますか?

奈緒 私は『テルマ&ルイーズ』。それまで女性同士の主人公の人生にスポットが当たるものをあまり見たことがなかったので凄く衝撃でした。恋愛映画にはロマンスがあるとは思うんですけど、女性同士の関係性を描いた作品はより人間同士としての絆が描かれていると思う。こういうジャンルの作品にすごく興味があって、ずっとやりたいなと思っていたので、『君は永遠にそいつらより若い』のお話を頂いたとき、『テルマ&ルイーズ』が頭に浮かんだりしました。

佐久間 うーん、そうですね。ちょっと恋愛寄りになってしまうんですけど印象に残っているのは『アデル、ブルーは熱い色』。カッコいい映画だなと思いました。女性二人のラブ的な要素がしっかり描かれていて。で、主人公の2人にすごい向上心があるのがいいですよね。お互いに刺激を受け合って成長していくんだもん。そしてちゃんと傷つけもしあって。

──『アデル、ブルーは熱い色』の主人公のアデルは学校の先生を目指しているという設定で、ホリガイさんも児童福祉司を目指していて、そういう職業設定のリアルさにはどう準備されたんですか?

佐久間 監督から資料を頂いたり、専門的な言葉を調べたりしました。でも、児童福祉司の人もひとりの人間だから、そもそもプロフェッショナルであるってどういうことなのか、調べれば調べるほど正解がない感じだったので、ある時点から、もし、自分がホリガイさんだったら、困っている状況に陥っている人をどう助けたいかなと考えるところに最終着地したというか。

不幸な状況を吹聴出来ない人に対して、どうしたらいいんだろう(佐久間)
「気づけなくてごめんね」の一言が、演じながらも救いとなった(奈緒)

──この映画は、ホリガイさんの同級生で、笠松将さん演じるホミネが同じマンションに住む虐待を受けている少年を保護したら、誘拐で逮捕されるなど、人助けが報われない局面も描いています。お二人は、映画の中で描かれる「人を助けること」について、自分ならこうするのになあと感じたことなどありますか?

奈緒 私はあすみちゃんです。不実な恋人に振り回されているんですけど、もうちょっと違う方法で、自分自身を助けてあげられないかなって、ちょっと思いますね。彼女もやっぱり自己を肯定出来ていない人だと思います。映画では、周りが彼女に手をつけられない感じになっていて、もし、私が彼女の友達になったとしたら、どういうふうに声をかけたらいいんだろうっていうのはすごい考えますね。でも、未だに答えがわからない。

佐久間 私はやっぱり、ホリガイを演じたからというのもあるけど、イノギさんに対して、どうしてあげたらいいんだろうと考えます。あすみちゃんのように、抱えている悩みをみんなの前でぶちまける人って、ある意味しっかり目立つし、注目してもらえるからみんなもかまうじゃないですか。けど、イノギさんみたいな人って、心の傷を押し隠しているから、やっぱり周囲は気付かないんですよね。ホリガイみたいな人が、無遠慮にポテポテ一緒に歩いて、部屋に入って、無遠慮に近づくから気づけたけど。そこがすごく切ない。

悲観的な意見を言いたいわけじゃないですけど、あすみちゃんみたいに不幸を吹聴できる人間と、そういうことには乗っかり切れない人の間にはすごくギャップがある。で、イノギさんって、言い方が悪いかもしれないですけど、自分もギリギリなのに人の事を助けるんですよね。悩んでいるホリガイを助けようとしてくれる。登場人物で一番ギリギリだったイノギさんが、ホリガイを救ってくれた。だからこそ目が離せない。私がイノギさんと友達だったら、「その助け方は、あなた、大丈夫?」って聞いちゃうと思います。

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奈緒 私、この映画の中で、ホリガイさんから「あなたのことをすごく気にしてる」って言われるんですけど、これってこんなに心が救われる言葉なんだなって、その撮影の時に初めて気づいたんです。イノギさんは自分の心の傷を周囲に気づかれないようにしてるんだから、気づかれなくて当たり前だって思ってるんだけど、やっぱりどこかで気づいて欲しい。だから、「気付けなくてごめんね」って言われるだけでも胸がいっぱいで。イノギとして、自分でもだんだん見失いそうになりそうな自分の叫びを気づいてくれる人がいるっていうだけで、救われる気がしました。

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──ラストの質問ですが、今日は自己肯定感の話になったので、お二人が自分の中で最も自己肯定感が強く思っているところと、弱いところを教えていただいていいでしょうか?

奈緒 私から言っていい?

佐久間 もちろん、どうぞ。

奈緒 私は自分のことを、すごい生命力があると思ってるんですよ(笑)。たまに自分のことを「私、すごい生きようとしてるな」みたいに感じる時があって、長生きしようとしちゃってるし、どうにか楽しく生きようとしちゃってるのをすごく感じる時がある。元々落ち込みやすいんですけど、でも生命力があるからな、みたいな気持ちでいるところが、自己肯定できるところかな。

で、自己肯定感の低いところは、生きようとしている、やりたいことをやっていることにもつながることですけど。自分のことでいっぱいいっぱいになるところ。何かをする時もやっぱり自分中心に考えているところとかがある。人に優しくなりたいのに、自分自身のことでいっぱいで、ちょっと冷たいなって悲しくなる時があります。だから、時々、優しいねって言われると、騙している気になるし、人から褒められたりしたことを素直に受け取りきれない。それがコンプレックスですね。もうちょっと笑顔で周囲の人に心からありがとうございますって言える人間になりたい。うん。

佐久間 それで言うと私も自己肯定感はすごい低いな。褒め言葉を素直に受け止められないというのは私もあるかもしれないですね。むしろ、受け止めちゃいけないって、律する自分もいるし。あと、同時にいろんなことができないとか。

奈緒 自己肯定できる、いいところは?

佐久間 人に恵まれているところ。それは素晴らしいな。

奈緒 それは、由衣ちゃんがいい人だからだよね。だから、優しい人が集まってくるんだよ。

佐久間 違うよう、心配されてんだよ(笑)。もう、支えてもらってばかりの毎日です。

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君は永遠にそいつらより若い

芥川賞作家、津村記久子氏の同名のデビュー作の小説を、吉野竜平監督が映画化。
大学卒業間近で、春から児童福祉司として働くことが決まっているホリガイは、二人の学生との印象的な出会いを得る。同じマンションで、ネグレストを受ける子供を見かねて保護したホミネと、謎めいた存在のイノギ。二人との交流でホリガイはやがて、「暴力」「児童虐待」「ネグレクト」などのやり切れない哀しみに直面し、事態を変えようと孤軍奮闘する。PG12

9月17日よりテアトル新宿他、全国にて公開。

 

配給:Atemo

©「君は永遠にそいつらより若い」製作委員会

映画「君は永遠にそいつらより若い」公式サイト

金原由佳 Yuka Kimbara

映画ジャーナリスト

兵庫県神戸市出身。関西学院大学卒業後、一般企業を経て映画業界に。約30年で1000人以上の映画監督や映画俳優のインタビューを実施。映画誌、劇場パンフレット、新聞などで映画評を執筆。著書に『ブロークン・ガール 美しくこわすガールたち』、共著に『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』。映画祭の審査員、トークイベントなど講演・司会も多数。

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