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【書評】東野圭吾さんの最新作は、“罪と罰”“善と悪”とは一体何なのか・・・考えずにはいられない長編ミステリー

2021.06.26

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『白鳥とコウモリ』
東野圭吾 ¥2200/幻冬舎

何が“罪”で何が“罰”?
人の心の割り切れなさに斬り込む東野ミステリー!

『白鳥とコウモリ』東野圭吾 ¥2200/幻冬舎
『白夜行』『容疑者Xの献身』など、数々のベストセラーを世に送り出してきた東野圭吾さんの最新作は、“罪と罰”“善と悪”とは一体何なのかについて、考えずにはいられない長編ミステリー。

舞台は2017年の東京から始まる。竹芝桟橋近くの路上で不審な車と他殺死体が発見された。死体の身元は、白石という55歳の弁護士だと判明する。彼は生前、人情肌の弁護士として知られており、知人も、妻や娘も「お父さんが誰かから殺されるなんて信じられない」と嘆く。

ところがこの事件の捜査を担当する五代は、調べを進めていくうちに、倉木という男から「白石を殺した」との自白を受ける。自身をどう裁いてくれても構わないと言う倉木だが、彼もまた、周囲の人間からは「人を殺すなんて信じられない」と評される好人物だった。そして倉木の息子・和真は、父親がなぜ逮捕されたのかを探るために、時には五代の力も借り、彼の過去に迫っていく。そして同じく殺された白石の娘も、父親の死の原因を知る努力を始めていた――。

殺人事件の容疑者の息子と、被害者の娘、刑事と3 つの視点を中心に、複雑に絡まり合った事件を紐解きながら描かれるのは、「罪を犯すこと」と「社会的な罰を受けること」は、必ずしも一致しないという、人間の世界のもうひとつの真実。TVやネットで知る世の中の出来事を、単純化して考えてしまいがちな私たちだけれども、一歩踏み込んでみれば、白か黒かでは割り切れない感情が、人をいろんな言動へ駆り立ててしまうのだと、彼らの姿を追っていくうちに気づかされる。

東野圭吾さんの作品の特徴は、登場するキャラクターが誰しも身近なところ。今の世の中で普通に働き、生活を回し、でもその中で痛みや葛藤を抱えた人たちが直面する事件に、読み手は心を震わされてしまう。本作もミステリー小説らしい謎解きを楽しみつつ、さらに人間の心が持つ優しさや割り切れなさに触れられる。読後は“善と悪”だけでは判断できない、別の新しい感情が自分の中に芽生えてくるかも。

『台湾を日常に
「神シェン農ノン生ション活フオ」のある暮らし』

范姜群季 ¥1760/グラフィック社

『台湾を日常に 「神シェン農ノン生ション活フオ」のある暮らし』范姜群季 ¥1760/グラフィック社
今年の春に日本第1号店がオープンした、台湾初の食と雑貨のセレクトショップ「神農生活」。乾麺やナイロンバッグなどの商品がお店で売られるまでの物語がぎっしりと詰まったビジュアルブック。
日々の暮らしの中で使いやすく、なおかつデザイン的にも優れたものがたくさん。海外への渡航が制限される今、台湾旅行の気分を味わえる一冊としてもおすすめ。

『「ふつうの家族」にさようなら』
山口真由 ¥1650/KADOKAWA

『「ふつうの家族」にさようなら』</span> 山口真由 ¥1650/KADOKAWA
弁護士で家族法の研究者でもある著者が、自身の育った家庭や、留学先のアメリカでの体験をもとに、現代のファミリーのあり方について綴ったエッセイ。
LGBT、事実婚など多様化する家族を紹介しつつ「それぞれの違いを炙り出すのではなく、“同じ”を見つけ出す」という考え方は、これからの家族を考えるうえで大切なのだと教えてくれる。



『キプリング童話集 -動物と世界のはじまりの物語-
【著】ラドヤード・キプリング 【絵】ハンス・フィッシャー 【訳】小宮 由 ¥1980/アノニマ・スタジオ

『キプリング童話集 <small>-動物と世界のはじまりの物語-</small>』</span> 【著】ラドヤード・キプリング 【絵】ハンス・フィッシャー 【訳】小宮 由 ¥1980/アノニマ・スタジオ
イギリス初のノーベル文学賞作家が、就寝前に自分の子どもたちに聞かせていた物語。
ハンス・フィッシャーによる挿絵が入ることでより想像力がかき立てられる。1902年に刊行された今も世界中で読み継がれる童話を、読みやすく新訳として刊行。子どもだけでなく大人もその世界に引き込まれる。


取材・原文/石井絵里


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