引き続き、ランドリーボックス代表の西本美沙さんのインタビューをお届けします。ウェブメディア『ランドリーボックス』では「生理」を入り口に、セクシャルウェルネス、妊活・出産、更年期、婦人科疾患、性教育など、女性が心身ともに健やかに生きるために必要な情報を発信。記事を読んで気になった生理用品やフェムテックアイテムは同サイト内で購入できます。西本さんがランドリーボックスを起業するまでの経緯は「ウェルネスを探す旅」そのものでした。(この記事は全2回の2回目です。前編を読む)
「あなたは何がしたいの?」と尊重してくれた母
西本さんの母はフルタイムで働きながら、男女同権や女性の経済的自立を勝ち取るための社会運動に明け暮れていました。西本さんも幼い頃にはメーデーのデモ行進や会合などに連れていかれたことも。いわゆるウーマンリブを地で行くような人でしたが、性に奔放なわけではなく、だからといって自分と違う考え方を否定することはありませんでした。西本さんに対しても「女の子らしくしなさい」などと言うことはなく、何かにつけて「あなたは何がしたいの?」と聞いてくれ、意見を尊重してくれたといいます。
男性に負けたくない母と対照的なのが祖母(母の姑)でした。祖母は恋多き女性で、女性であることも楽しんでいたタイプ。バーのママとして働いていた経験があり、男性のあしらい方も上手。母が家にいない時には、祖母が西本さんにご飯を作ってくれていました。
「母と祖母はタイプも考え方も結構違う。でもどちらも言っていることは間違ってないし、どちらの意見にも納得できた。そんな二人を見て面白いなと感じていました。ゴーイングマイウェイな母を見て育ったからか、女性であることで窮屈な思いをすることはあまりなかったですね。『ランドリーボックス』についても母は『女性の解放運動をしているのね』という認識で(笑)。私は一度も結婚したいとも、子どもを産みたいとも思ったことがないし、それに対して負い目を感じたこともないですけど、それも母のおかげかも。母に『結婚しなさい』と言われたこともありませんし」
PRとして数社渡り歩きドワンゴに転職
タイプの違う母と祖母の良いとこ取りをしながら伸び伸び育った西本さん。中高時代はテニス部や地元の児童劇団に所属したり習い事に明け暮れる日々。大学では軽音楽サークルに所属しバンド活動一色に。エントリーシートを書いてリクルートスーツを着て……という就職活動に違和感を覚え、就活をせずに大学を卒業。学生時代にアクセサリーショップでアルバイトをしていた際、雑誌掲載された商品がとても良く売れていたのを目の当たりにしたことがきっかけでPR業に興味を抱きました。その後、アパレル販売員や派遣社員などを経て、PR会社に就職します。
父が亡くなり一旦実家に戻るものの、PR会社時代の先輩が独立開業した会社に再び就職。その後「これまでは外側のPRばかりだったけど、事業会社で自社PRをやりたい」と、『ニコニコ動画』などのインターネットコンテンツを提供する株式会社ドワンゴに転職したことが西本さんの転機となります。
ドワンゴ入社後、ブログサービスのPRを担当することになり、ユーザビリティの確認のため、実際に自分でもブログを書いてみることに。どうせなら他のブログと差別化を図りたい、だったら自分が興味のある「性」をテーマにしよう、とブログを立ち上げます。
セルフプレジャーアイテム体験記や性に関するアンケートを発信
子どもの頃から性的なことに関心があったものの、さすがにそれを友人におおっぴらに話せなかった西本さん。大学生のときに当時付き合っていた彼氏とのマンネリ解消のためにドン・キホーテで生まれて初めてローターを買ったときも、親友一人にしかその話ができなかったといいます。彼氏と別れた後もローターは手元に残り「便利だな」と思い、その後もセルフプレジャーアイテムを色々買っては試すように。その頃は現在のようにオシャレで可愛いものは皆無でした。
そのようにして手元に集まったセルフプレジャーアイテムの使用レポートや、性に関する様々な悩みについてブログで発信。同時にマスターベーションの頻度など、性に関するアンケートを友人に取り、その結果でプレスリリースを作成し関係者に送付。活動を見ていた友人たちから徐々に「実は私も悩んでて……」と打ち明けられることが増えていきます。
執筆依頼で手応えを感じオウンドメディア立ち上げ
ブログ執筆にあたり、実はプロの指導を受けたという西本さん。PR業務を通じて知り合った記者3人をグループメッセージに巻き込み、記事を添削してもらったといいます。西本さんのブログは徐々に評判になり、『AM』をはじめとするネットメディアからも執筆依頼が舞い込むようになります。それと平行して、ブログの読者からも性にまつわる真面目な悩みが届くように。
「最初は匿名でブログをやっていたんですけど、アダルトコンテンツ認定されて凍結されてしまって。私としては『健康』カテゴリーのブログという認識だったんですけどね。それでブチ切れて社内の担当者に『利用規約には反していません!』と直訴した結果、ブログは復活できましたが、自分の社内ブランディングは崩壊しました(笑)。辞めた今でも自由な会社だったな、と感謝の思いでいっぱいです」
「性」=「生」、性の話は生き方の話に繋がる
ブログの手応えを感じた西本さんは「より客観的な記事を書きたい」と思うようになり、取材を進めるにあたりメディアの体裁を取った方がやりやすいだろうと『ランドリーボックス』の前身となる『ランドリーガール』を立ち上げます。
「『ランドリーガール』では映画監督や写真家など、性についてのクリエーションをしている人の取材がいちばん面白かったですね。『性』の話をしていると『生』の話に、その人がどういう生き方をしてきたか、という話に繋がるんです。『性』=『生』なんだな、と改めて実感しました」
あたり前から脱するための自立支援をしたい
ドワンゴを退社し、フリーランスPRとして働きつつ、これまで以上に『ランドリーガール』の運営、取材、執筆に注力するように。その後、前述のセルフプレジャーアイテムの体験型イベントをきっかけにランドリーボックスを起業。今年の8月で『ランドリーボックス』は2周年を迎えます。
「まだまだやりたいことはいっぱいあって。コロナの影響もあるかもしれませんが、『ランドリーボックス』を運営していて、誰かに悩みを聞いてほしいと思っている人が本当に多いなと感じます。オンラインサロンなど、読者が自分の話をしたり、読者と先輩、専門家が連携できるような『コミュニケーションの場』を検討中です。
また、昨今の『生理の貧困』についてのニュースが象徴しているように、女性のQOLの向上には身体の健康だけではなく、経済的自立を促す支援も必要。道のりはなかなか長いですが、様々な人たちと底上げを目指していけたらと思っています」
西本さんに聞きました
身体のウェルネスのためにしていること
「たまに白湯を飲む、たまに走る(ウェアはユニクロ)、週1で銭湯へに。睡眠は結構重視していて、最近枕をセミオーダーのものに買い変えました。基本的に外食派でしたが、コロナ禍をきっかけに自炊を始めました」
心のウェルネスのためにしていること
「飼い猫が心の拠り所。6歳の雌の黒猫で、元々保護猫でした。私のカバンの中に入ったり、パソコン作業の邪魔をしたり。我が子のように可愛いがっています。コロナで機会は減ってしまいましたが、映画を観るのも好きです」
撮影/高村瑞穂 取材・文/露木桃子
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