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【書評】落語が“庶民の娯楽”になる過程を描いた、ユーモアあふれる小説「ぴりりと可楽!」他3編

2020.10.29

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庶民の笑いを作り上げた
いなせな男の青春時代小説!

『ぴりりと可楽!』吉森大祐 ¥1600/講談社

ここ数年で、すっかり古典のエンターテインメントのひとつとして若い世代にも定着した落語。その落語が、今のように多彩な演目や人気落語家とともに親しまれるようになってきたのは、江戸時代の後半頃。その黎明期を生きた又五郎という青年を主人公に、落語が“庶民の娯楽”になる過程を描いた、ユーモアあふれる小説が今月の一冊。

1798年の江戸。櫛くし職人の又五郎は、本業の修行に励みつつも、楽しいことが大好きな青年。地元に住んでいるお笑い好きが集う「噺はなしの会」にも、下っ端として参加していた。ただし当時の江戸ではお笑いを商売にすることは禁じられ、一部の趣味人の道楽として、ひっそりと続けられているような状況だった。そんな折、お笑いの興行が禁じられていない大坂から、芸人たちがやってくると知った又五郎は、そのことをきっかけに「江戸にも庶民のためのお笑いを作る」「プロがいない江戸の落語の世界で、プロの落語家になる!」という決意を固め、江戸近郊に散らばっていた、落語の名人たちのところへ行き、自分なりの笑いのスタイルを見つける修行に出ることに――。

名人たちの言葉を手がかりに、また高座での経験を積み重ねて、少しずつ“ウケる笑い”を作り上げていく又五郎。その不屈の精神と前向きさは、読んでいるこちら側にもエネルギーを与えてくれる! 

そして又五郎の行動力に惚れ込み、志をともにする仲間たちとの関係も、情熱的でいながら、同時にからっとしていてすがすがしい。さらに又五郎が編み出した、これまでになかった落語のスタイルは、今では私たちにとっては、おなじみのもの。実在の人物に基づいて書かれているこの小説。物語の中盤以降、「えっ、あの落語スタイルって、又五郎が作ったものだったの!?」と、おおいに驚いて! 

人を笑わせることに命を賭けた青年の、いなせな生き様に、読後はスカッとした気分になること間違いなし。落語への知識がまったくない人も、江戸が舞台の青春モノとして読むうちに、その奥深い世界に惹き込まれるはず!

『砂漠が街に入りこんだ日』
【著】グカ・ハン 【訳】原 正人 ¥1800/リトル・モア

高校生のときに偶然会話を交わしたのち、別々の人生を送る二人の女性たちの行方、戦争が終わった国で漂うように暮らす一人の男――。時代や性別を超えた、たくさんの人間の物語がちりばめられた短編集。
一話10ページ弱と少ない文章量の中にも、人物たちのかけがえのない人生が凝縮されており、それを読む自分の日常も、また貴重なものだと思えてくる。

『蝶の粉』
浜島直子 ¥1300/ミルブックス


本誌でおなじみ、はまじこと浜島直子さんの初の随筆集。
子ども時代から今に至るまでの思い出や自身の成長のわだちなど、はまじ流ユーモアと詩的な言葉で丁寧に紡がれた全18話。日常や人間関係から得られる洞察や心模様の描写にハッとさせられ、はまじファミリーのお話ではほろりとすることも。かけがえのない日常の愛おしさに気付かせてくれる一冊。



『後ハッピーマニア』 1巻
安野モヨコ ¥900/祥伝社

’90年代に大ヒットし、ドラマ化もされた人気漫画『ハッピーマニア』の続編! 

ヒロインのカヨコは、自分を愛する男子・高橋と結婚。しかし40代半ばとなった今、別れを切り出され――。夫婦の心の機微や、大人の女性のあり方など、新たな課題に直面するカヨコ。その生き様にハラハラしつつも、「自分にとっての幸せとは?」と考えさせられそう!


取材・原文/石井絵里


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