LIFE

韓国ドラマ・映画のススメ

『82年生まれ、キム・ジヨン』を多くの女性が「私のこと」と感じた理由は? 翻訳家・斎藤真理子さんに聞きました

2020.10.08

この記事をクリップする

『82年生まれ、キム・ジヨン』を多くの女性が「私のこと」と感じた理由

韓国で社会現象になった小説『82年生まれ、キム・ジヨン』が日本でも大ヒットしています。

どこにでもいる普通の女性ジヨンが、出産後に精神を病んでしまう物語が、なぜ爆発的人気を博したのでしょうか。

翻訳家 斎藤真理子さんに聞く
『82年生まれ、キム・ジヨン』

翻訳家 斎藤真理子さん
翻訳家。明治大学考古学科卒。大学のサークルで韓国語を勉強、’91年よりソウル延世大学語学堂に留学。他の訳書に『こびとが打ち上げた小さなボール』(河出書房新社)など。『カステラ』で第一回日本翻訳大賞受賞。

就職差別や家父長的価値観、名もなき家事……声なき声を集めて光を当てたら問題作に

「韓国は、日本の2、3倍の速さで民主主義国家になり経済成長し、数十年で大激変しました。ところが世の中は大きく変わっても、社会の小さなことは変わらない。例えば、おばあちゃんは男の孫ばかり可愛がる。そういう社会や家庭での小さなことを丹念に積み重ねた内容が、“あるあるの嵐”だったのです」(翻訳家 斎藤真理子さん)

MeToo運動などと連動し、無駄な女子力は必要ないと“脱コルセット運動”などが起きる一方で、「兵役がある分、男のほうが損をしている」など、小説に対する批判の声も上がったそうです。けれどそうした小さな諍いさかいに決着させない、周到な計算が施されていました。

「例えば経済的に平均より少々上のジヨンの育った家庭、女性に理解ある優しい夫という設定も、“家族が悪い/男運が悪い”に着地させない意図があります。恵まれた環境で幸せそうな人でも病むほどの苦労がある。読んだ人に、家庭内ではなく、社会や福祉の問題として考えさせるためのうまい仕掛けでした」(翻訳家 斎藤真理子さん)

一方で、日本での反響の大きさは想定外だったそうです。

「期待はしていましたが、それ以上で。ちょうど ’18年暮れの発売時期と、医学部不正入試問題や権力者のセクハラ事件が重なり、女性の共感が膨らんだのを感じました。ただ“読んで泣いた”という感想は日本独特で、その多さに驚きました。ハッキリ物を言う韓国の女性に比べてあまり強い物言いをしないジヨンのキャラクターは、日本の女性たちに近いのかもしれません」(翻訳家 斎藤真理子さん)

さて、当然の流れと言うべきか、小説は映画化され、待望の日本公開が迫ってきました。

「原作は医者のカルテとして淡淡と書かれていますが、映画はその行間をうまく読み、人間像や人間関係が実に細やかに描かれています。掛け値なしに本は本で映画は映画で、両方ともおもしろい作品です」(翻訳家 斎藤真理子さん)

主演チョン・ユミとコン・ユの、絶妙なキャスティングの勝利でもあると続けます。

「この二人は『トガニ』『新感染』で共演してきて、単なるカップルというだけではなく、困難に立ち向かう“同志”的なイメージが強いんです。それもうまく機能したと思います。また二人の繊細な演技もいいですね。特に終盤、妻の異変を彼女の母親が目にする姿を見て、夫が泣く。妻を救えなければ、お母さんをも救えない、と。ずっと家族のために犠牲になってきたお母さんの、かつての夢や歴史をいたわる姿勢がさりげなく出ていて、本当に素晴らしかった。それをセリフでなく、コン・ユの表情だけで表現している。大好きな、おすすめのシーンです」(翻訳家 斎藤真理子さん)

そして映画は、小説とはまた違うラストへ導いていきます。

「原作から一歩、踏み出した先の希望を描いている。映画はカルテではなく処方箋。観た人それぞれが自分なりの処方箋を作っていってほしい、というメッセージも感じました」(翻訳家 斎藤真理子さん)

夫やパートナーと一緒に観て、自分たちならではの家庭の処方箋、作ってみませんか?



映画『82年生まれ、キム・ジヨン』は、
誰もが"あるある"と叫ばずにいられない必見作

©2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

出産を機に仕事を辞めたジヨン(チョン・ユミ)は、育児と家事に追われ、次第に息苦しさを覚えるように。

心配する夫デヒョン(コン・ユ)に疲れているだけと言い続けるも、あるときからジヨンは、母や亡き友が憑依したようにしゃべり始める。衝撃を受けたデヒョンは精神科に相談に行くが、ジヨン自身は何も覚えていなくて……。

監督はこれがデビュー作のキム・ドヨン。

「映画はジヨンとお母さんの関係が、一層強く力をこめて描かれています。それも監督の一つのメッセージだと思いました」(翻訳家 斎藤真理子さん)

©2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

©2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

『キム・ジヨン』がおもしろかったあなたには
こちらの映画もオススメ!

不当解雇と闘う女性たち『明日へ』

大型スーパーで働く女性たちが、不当解雇へ抗議するため、組合を作って闘い始める。

いろんな境遇の女性たちが、強烈にわかり合っていくシスターフッドの物語でもあります

隠蔽体質の学校を告発!『トガニ 幼き瞳の告発

聴覚障害者学校で性的虐待を知った美術教師が、告発しようとするが。

社会派で重い内容なのに、エンターテインメントとしてもちゃんと成立させている、と言えばこの作品です

取材・原文/折田千鶴子

この記事へのコメント( 0 )

※ コメントにはメンバー登録が必要です。

LEE公式SNSをフォローする

閉じる

閉じる