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宮沢氷魚さんインタビュー「今だからこそ、やる意味がある舞台に参加できて幸せです」

2020.09.07

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誰にとっても困難な状況が続く昨今、俳優として大きく羽ばたいている最中の宮沢氷魚さんも今年前半は悔しい出来事が続いた。

昨年から入念に準備していた舞台『ピサロ』が開幕直後に新型コロナウイルスの影響で中止になり、夏に予定されていた別の舞台も中止になった。

ぽっかり空いてしまったスケジュール。「悔しい気持ちをどこにぶつければいいかわからなかった」という宮沢さんに、急遽届いたオファーが『ボクの穴、彼の穴。』という舞台への出演だった。

宮沢氷魚さん
「今だからこそ、やる意味がある舞台に参加できて幸せです」

「演じたい欲求を夢中でぶつけられる場を与えてもらい、暗闇に光が差したように感じました。まだ稽古に入っていませんが、毎日、台本を何回か読み、自分の中に役と物語を“入れる”作業をしているところで、とてもわくわくしています」

『ボクの穴、彼の穴。』は、戦場の塹壕に取り残された「ボク」と近くにいるらしい「彼」が、それぞれ「見えない敵=モンスター」の存在に脅え、「殺すか、殺されるか」の狭間で揺れ動き、疑心暗鬼の妄想を広げながら、最後にある決断をする、という物語だ。どんな質問にもやわらかな佇まいで丁寧に答えてくれるが、そんな宮沢さんの中にも、「モンスター」はいるのだろうか。

「モンスター……そうですね、きっといるんだと思います。例えば、ステイホーム中に、僕は小さな疑心暗鬼にさいなまれました。というのも、普段なら気にも留めないのに、誰かが触ったドアノブを触るのを躊躇した。そんな自分を嫌だな、と思いながら、どうすることもできないんですよ。まさに“見えない敵”との戦いです。そんな今だからこそ、この舞台をやる意味は大きいし、観客の皆様の心にも響く作品だと思います。これまで同じ舞台で何度か共演し、プライベートでも仲のいい(大鶴)佐助と共演するのもすごくうれしかったです」

大鶴さんとは仕事以外でもよく遊ぶ仲で「自分が自然でいられて、長時間一緒にいても、まったく疲れない大事な友達」だそう。

「僕は誰かと2人きりになるのが苦手なんです。沈黙が生まれるのが少し怖くて。でも、不思議と佐助とは20分以上しゃべらなくても気まずくならず、全然平気なんですよ(笑)」

ステイホーム期間中は「料理と美容」に時間を使った。

「料理は前から好きでしたが、美容は無頓着で。でも、ふと鏡で自分の顔を見たら、目力が落ちて、ぼんやりした顔になっていた。人から見られる仕事って、見られないでいると変わるんだな、と実感しました。それで、人前に出ない間も顔と体をキープする努力をしないと!と思い立ち、フェイスマスクをしたり、入浴剤を入れてしっかりお風呂につかったりしました。やれば結果が出るものなんですね。身近な世界にも知らないことってたくさんありますが、美容もそのひとつでした。興味がなくても知る、やってみるって大切。特に生身でお客さんの前に立つ舞台は、俳優の日常が如実に出ます。だから自分以外の誰かの行動や大事にしていることも吸収して、さまざまな価値観を理解できるようにしたい。これからもっと知らないことに踏み込んでみたいです」

容姿端麗、頭脳明晰、語学堪能、性格抜群によし。非の打ち所がなさそうな宮沢さんだが、謙虚に学び続ける姿勢を崩さない。さらに大きく成長するに違いない逸材だ。

PROFILE

みやざわ・ひお●東京都出身。1994年米カリフォルニア州サンフランシスコ生まれ。’15年『メンズノンノ』専属モデルとしてデビュー。’17年、ドラマ『コウノドリ』第2シリーズで俳優デビュー。以後、ドラマ『偽装不倫』、映画『his』など映像作品のほかに『豊饒の海』『ピサロ』など、舞台作品での演技も評価され、これからの活躍に大きな期待が集まっている。

舞台『ボクの穴、彼の穴。』

松尾スズキが初めて翻訳を手がけて話題となった絵本をノゾエ征爾が大胆に翻案・舞台化。今回は4年ぶりの再演。穴の中に身を潜め恐怖と疑心暗鬼にさいなまれる2人の兵士役は新キャストの宮沢氷魚、大鶴佐助が演じる。勢いと実力が伴った若手による、注目の2人芝居。

●9月17~23日 東京芸術劇場 プレイハウス 問い合わせ=☎03・3477・5858(パルコステージ)


撮影/きくちよしみ ヘア&メイク/阿部孝介(トラフィック) 取材・文/中沢明子

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